落語古典落語特選
古典落語特選
商品名 古典落語特選
発売日 2006年09月20日
商品コード MIKI-1035/6
JANコード 4571117350815
定価(税込) 3,143円
収録時間 DISC-1:75分13秒
DISC-2:75分35秒

古典落語はその時々の観客の反応を肌で感じた落語家たちのさまざまな工夫によって人間の本性・本能を描くことができている。時代を越えて共感できる人間の本質が描かれているから江戸時代や明治時代が舞台となっている落語でも今の時代に人々に愛されているといえる(ライナーノーツより)


解説付(演芸研究家 布目英一)


★印のみステレオ

収録内容


    DISC-1
  1. 堪忍袋(21分39秒)

     三代目 三遊亭 金馬
    明治二十七年(一八九四)生まれ。大正元年(一九一二)、講釈師揚名舎桃李に入門。初代三遊亭圓歌の目に止まって落語家に転向。三遊亭歌当、三遊亭歌笑、三遊亭圓洲の後、三遊亭金馬を襲名。昭和二十九年(一九五四)に千葉県佐倉で列車に轢かれ左足に大怪我を負う。釣りに出かけて鉄橋の上を歩いていての事故だった。以後は釈台で演じたり、テーブルを前に置いて椅子に腰掛けて演じたりした。
    一点一角のゆるぎもない骨太で明瞭な語り口が特色。また時流にあった改作もの、新作ものを次々とレコードに吹き込む。老若男女の区別なく幅広い層から支持され、レコードとラジオで最も人気を得た落語家だった。
    昭和三十九年(一九六四)十一月八日、七十一歳で死去。「私事この度無事死去つかまつり候」で始まる本人の挨拶状が届けられた。

    【解説】演芸研究家:布目英一

    三代目 三遊亭 金馬

  2. お化け長屋(34分44秒)

    三代目 三遊亭 圓生
    明治三十三年(一九〇〇)、大阪生まれ。三十七年(一九〇四)頃上京。子供義太夫で寄席に出演した後、四代目橘家圓蔵門の橘家圓童で落語家に転向。子供ということで前座修行はなく、初めから二ツ目扱いだった。以後、橘家小圓蔵、橘家圓好、三遊亭圓窓、橘家圓蔵となって三遊亭圓生を襲名した。
    長篇人情噺や音曲嘶、芝居噺、『三十石』のような大阪弁の達者さが要求される噺も手がけるなど芸域は幅広い。
    最後の高座は五十四年(一九七九) 九月三日、習志野市の後援会発足式での小咄『桜鯛』。この日は圓生八十歳の誕生日だったが、この口演の直後、心筋梗塞で亡くなった。前年には真打ちの乱造に反対して落語協会を脱退、それが話題となり、仕事は過密をきわめ、五十四年三月には歌舞伎座での独演会を開催するほどの人気の絶頂においての死であった。

    【解説】演芸研究家:布目英一

    六代目 三遊亭 圓生

  3. うどん屋(19分00秒)

    八代目 三笑亭 可楽
    明治三十一年(一八九八)生まれ。大正四年(一九一五)に初代三遊亭圓右に入門し三遊亭右喜松。三遊亭三橋、翁家さん生、翁家馬之助、春風亭さん枝、春風亭柳楽、春風亭小柳枝の後、三笑亭可 楽を襲名した。
    音曲や踊りの下地もあり、江戸前の渋い語り口と長い不遇時代に身についた「表情のない表情」といわれる屈折感漂う高座で熱狂的なファンを持っていた。陽気な噺よりもしみじみとした味わいのある噺に可楽ならではの味があった。
    「よっぽどのことか可楽が駆けてくる」という川柳があるくらい日常生活でももの静かに過ごした。また酒が大好物で、亡くなる二日前にも病床から起き上がり、冷や酒を飲み干したという。
    昭和三十九年(一九六四)八月二十三日、六十六歳で死去。

    【解説】演芸研究家:布目英一

    八代目 三笑亭 可楽

    DISC-2
  1. 首ったけ(22分46秒)

     五代目 古今亭 志ん生
    明治二十三年(一八九〇)生まれ。四十三年(一九一〇)頃二代目三遊亭小円朝門下となり三遊亭朝太。以後、三遊亭円菊、金原亭馬太郎、金原亭武生(ぶしょう)、金原亭馬きん、古今亭志ん馬、講談に転向して小金井芦風、落語に戻って古今亭志ん馬、古今亭馬きん、古今亭馬生、柳家東三楼、柳家ぎん馬、柳家甚語楼、隅田川馬石、柳家甚語楼、古今亭志ん馬、金原亭馬生、古今亭志ん生と改名を続けた。これも貧乏ゆえだった。名前を変えることで心機一転頑張ろうと誓ったこともあれば、借金取りの執拗な取り立てから逃れるための改名もあったという。しかしこのような生活の中で落とし嘶から人情噺までさまざまな噺を我がものとした。
    また高座で酔って寝てしまったり、家賃がいらないといわれて住んだ長屋がなめくじだらけだったという日常は志ん生の芸と重なって「志ん生伝説」となった。
    昭和三十六年(一九六一)に巨人軍の祝勝会の高座で脳出血で倒れ療養生活に。一時カムバックを遂げたが、昭和四十八年(一九七三)九月二十一日、八十三歳で大往生。

    【解説】演芸研究家:布目英一

    五代目 古今亭 志ん生

  2. 崇徳院(21分24秒)

     三代目 桂 三木助
    明治三十五年(一九〇二)生まれ。大正八年頃(一九一九) 春風亭柏枝に入門し、春風亭柏葉。 春風亭小柳の後、大阪の二代目桂三木助のもとで桂三木男となって修行。東京に戻って春風亭橋之助、春風亭柳昇、春風亭小柳枝となる。この頃博打とズボラで「隼の七」の異名をとる。「七」は本名が小林七郎であることによる。花柳太兵衛の名で舞踊の師匠に転向したが、橘ノ圓(まどか)で落語家に復帰。この後は芸に精進し、ラジオのとんち教室で知名度も高め、桂三木助を襲名する。
    いなせな語り口の中におどけた味わいが漂う。さらに軽妙なギャグは三木助最大の武器。
    昭和三十六年(一九六一)一月一六日に六十歳で死去。病に倒れ、自らの死期を定めて志ん生などの落語家仲間や知人を集めたが、なかなか臨終を迎えられなかったという。

    【解説】演芸研究家:布目英一

    三代目 桂 三木助

  3. 道具屋(31分25秒)★

     十代目 柳家 小三治
    昭和十四年(一九三九)生まれ。昭和三十四年(一九五九)、五代目柳家小さんに入門して柳家小だけ。柳家さん治の後、柳家小三治で真打。
    映像的表現という点では現今の落語家の中で最も卓越した技量の持ち主。ユニークな着眼点にも定評があり、落語本体だけでなく、マクラの題材となるさまざまな出来事にまで細かい内容分析を行なう。
    ここに収められている録音は三十代後半のものだが、その緻密で正確な描写力には目を見張る。ほのぼのとした味わいを醸し出す独特の語り口での人物の演じ分けも見事だが、声の調子だけで人物どうしがどのような位置関係で、どのくらい離れて話をしているのかも伝わってくる。小三治の頭の中に情景が細かに描かれていて、それを的確に演じてみせる描写力がある。このように正確緻密に描写していくことを積み重ねた結果として現在の名人芸があると理解できる。

    【解説】演芸研究家:布目英一

    十代目 柳家 小三治




落語の魅力

演芸研究家 布目英一

人間の感情や欲望、考えることはいつの時代も変わらない。すぐれた落語を聴くとこのように思うことがある。長い年月をかけて多くの落語家に改良、時には改悪もされてきた落語が古典落語と呼ばれるのはそのような理由があるからだろう。古典落語はその時々の観客の反応を肌で感じた落語家たちのさまざまな工夫によって人間の本性本能を描くことができている。時代を越えて共感できる人間の本質が描かれているから江戸時代や明治時代が舞台となっている落語でも今の時代に人々に愛されているといえる。
例えば「堪忍袋」で描かれている夫婦喧嘩は夫婦仲がよいからこその喧嘩。まさに犬も食わない。現在も日常的に我々の身近で起きている。また酔った寅んべが訴える仕事上のいさかいというのもよくあることだ。
「お化け長屋」は空き家をただで使おうという欲得から入居希望者を怪談でおどかす話。細かな状況説明の上に色気も加わる怪談はなかなかのもの。最初の男は話につりこまれて恐怖で一杯となる。しかし次の男は何を言ってもびくともしない。その対比が面白い。
「うどん屋」の酔っ払いは知り合いの一人娘の婚礼に出席していたく感激、とてもうれしくなってしまってへべれけになっている。その巻き添えとなったうどん屋はかわいそうだが、幸福な気分で一杯のこの酔っ払いを私は責めることはできない。
「首ったけ」は客商売の建前と本音を見事に描いている。私自身、居酒屋などで客のわがままがエスカレートして店の人間が腹を立てるといった場面に遭遇することが ある。花魁どうしの確執も夜の世界で働くキャバクラ嬢やホストといった人々どうしの確執と同類のものだろう。
「崇徳院」で描かれる恋思いは今ではとんと聞かない病となった。しかし息子の様子におろおろする父親の深い愛情とも親馬鹿ともとれる行動は現在でも見ること ができる。
「道具屋」では親切なおじさんの世話で与太郎が露店を始める。おじさん同様に同業の衆は親切だが、客の中には冷やかしもいて、前途多難な開業となる。与太郎を取り巻くこれらの人々も今の世に普通にいる人達だ。
このようにここに収録されている作品だけを見ても、誇張はあるが、我々の分身が 我々と同じ思考パターンで行動し、笑ったり怒ったり泣いたりしているといえる。この点がまず落語の魅力として挙げられる。
また「堪忍袋」では隣近所が助け合いながら生活している様子が描かれている。過度の干渉は御免だが、隣にだれが住んでいるのかさえ分からない生活よりは温かさがあるのは確かだ。また「道具屋」では与太郎におじさんや同業者といったまわりの大人が温かく接している様子が描かれている。弱者だからと、はれものにさわるような不自然な扱いはけっしてしない。このように人間関係のあり方についても教えられるところがある。
「首ったけ」で描かれている吉原の風俗、「崇徳院」で描かれている大店(おおだな)の旦那と出入りの職人の関係など、昔の風俗、暮らしぶりなどを知ることができるのも落語の魅力の一つだ。
そして何と言っても個性的な演者一人ひとりの独特な語り口の妙味。ここに収録されている演者は昭和と平成を代表する名手ばかり。健在なのは柳家小三治だけだが、収録されている小三治の録音は三十代後半のもの。その若さでこれだけの完成度を誇る。

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